機種変

 「手だけコロボックル」の私は店へと赴いた。その店は会社の名前を変えてから執拗に「国境を越えろ国境を越えろ」と脅迫してくる事で有名だが、私は果敢にも足を踏み入れた。平井堅を3倍薄めたような顔の店員と対峙する。一瞬たじろぐ。だが濃さになど負けてはいられない。「機種変を頼みたい」「かしこまりました。どの機種になさいますか?」提示された機種はすべて「手だけコロボックル」の私にはデカすぎた。デカい。デカい。デカすぎる。お前ら何でも大きくすりゃいいと思うなよ!!と内心憤慨しつつも冷静にひとつを選ぶ。ふと「これからm-i-x-iやりまくるだろうから噂の『パケ死に』を経験してしまうかもしれない。そうなる前に手を打たなければ」と思いをめぐらせ、平井堅を3倍薄めたような顔の店員に「パケット定額に入りたいのだが」と伝えると平井堅を3倍薄めたような顔の店員に「お客さまの選んでいただいた機種では加入できません」「お客さまだいぶ通話料金使っていらっしゃるようですね」「ポイントをご利用になるとお値段相殺されますがいかがなさいますか」という波状攻撃を受け、瀕死寸前になる。何くそ。負けるものか。勇気だけが友達だ。「じゃあパケット定額は諦めます」「でもこれからLOVE定額始まるんですよねー」「じゃあポイント使って機種変します」なんていう見事な返し技を披露。ありがとう勇気。こうして「手だけコロボックル」の私は手に余る携帯を無事にゲットし、役目を終えた平井堅を3倍薄めたような顔の店員は「ありがとうございました」と私の背に告げたのだった。