パコと魔法の絵本、うそうそ、沼地のある森を抜けて

うそうそ (新潮文庫) [ 畠中恵 ] パコと魔法の絵本 (幻冬舎文庫) [ 関口尚 ] 沼地のある森を抜けて (新潮文庫) [ 梨木 香歩 ]

とある病院に入院した大富豪の偏屈じじい大貫は、そこで絵本好きな少女パコと出会った。ある日、勘違いからパコの頬を叩いてしまった大貫は、彼女が事故の後遺症で一日しか記憶がもたない病気だと知る。「ねえおじさん、前にもパコのほっぺに触ったよね?」。昨日を失った少女の心に特別な思い出を残そうとした大人たちの、心温まる奇跡の物語。

「映画であったなー」くらいの知識で読み始めたらまさかの泣き崩れコース。レビュー力がなくて「良かった!」としか言いようがないのですが、良かったです。この話を「あざとい」と感じる人もいるだろうし「ありえない」と思う人もいるだろうけど、個人的には「これは魔法だから、いいんだ」とすんなり納得しながら読むことが出来ました。5年くらい前だったら大貫の華麗なる変身っぷりに「いやいやいや」てなってたかもしれないけれど、きっかけというのは本当にどう転がってるか、どう影響があるのかわからないものだし、そのきっかけが魔法みたいに良い方向に行くこともあるかもしれない。こういう話を読んで泣きそうになったことは、歳を取ったなぁとも思うし、泣けるようになったなぁと変な発見などもあって、充実の読後感でした。大人たちが真剣に、真面目にお芝居をする件は本当に自分の中が大変なことになってしまって危うく外で嗚咽するとこでした。真面目、大事。こういう風な読後感に出合ったりできるかも、と思うと本は面白い。

シリーズも5作品目になり、連れは「少し飽きてきた」というのだけど、自分の方では相変わらず楽しかった。気負わずにさらっと読めるものがあるのは嬉しい。病弱な若だんなが旅に出るっていうのだけど、旅に出るからには何か起こるよねワクテカ!!!て思ってたら手厚くいろいろな妖怪に襲撃されたり憎まれたり泣きつかれたりしていたので「期待を裏切らない若だんな」としてますます定着していってる。天狗に襲撃されたときに颯爽と(偶然)現れた佐助の登場シーンではときめきゲージが上がりまくりです。単なる怪異時代コンボ小説かと思うと、おろおろしてそうで案外と芯のある若だんなでも「思うように体が動かないこと」、強いては「誰かの、何かの役に立つことが出来るのだろうか」という苦い悩みが消えないジレンマのような描写がチラリとあったりして、微笑ましいだけじゃない部分も気に入ってます。若だんなは真っ直ぐでいいなあって思う。

単なるぬか床じゃないぬか床の世話をしなくちゃいけなくなった「私」の章と、「個」を自覚していく「僕」の章が交互に組まれているのだけど、どうしても「僕」の章になると読むペースが落ちてしまった。設定にうまくのめりこめなかった・・・。久しぶりの長編で「先祖伝来のぬか床が呻くのだ」という一文に期待が高まってしまった上に、ぬか床の章が面白かっただけに何だか悔しい。ぬか床を世話しているうちに卵が出来、またしばらくするとぬか床から人のようなものがやってくる。このぬか床は何なのか、なぜぬか床に「選ばれる人、選ばれない人」がいるのか、卵と人は一体どういう意味があるのか等、興味を惹かれる要素はたくさん散りばめられている。「からくりからくさ」と連動しているみたいで、そちらの方は未読なせいかもしれないのだけど、「生と死」という深いテーマまで自分が辿りつけなかったのが凄く残念です・・・。時間置いて再読したらもっとしっかりと読み込める気がする。